アイリッシュリネン、フレンチリネン、ベルギーリネン、リトアニアリネン それぞれの違いが分からないという方も多いので、もう一度整理をしてみます。
そもそも何をもって産地表記とすべきなのか
原料(フラックス)の産地なのか、糸に紡績した産地なのか、製織(布に織る)した産地なのかで、意味合いがことなります。
こちらを参照してください。

原料(フラックス)を産地表記すると、ほとんどがフランス(フレンチリネン)でしょう。フランドル地方ベルギー・オランダもありますが、フランス・ノルマンディー地方からフランドル地方がほぼメインですね。
糸に紡績した産地となると、中国が大半になりますでしょうか。フランス大手Terr de Linでもフラックス原料は中国向けが80%と聞きました。ヨーロッパだとフランス、ベルギー、イタリア、リトアニアぐらいで紡績が行われています。日本では行われていません。
製織も中国が圧倒的に多いです。ヨーロッパでは各国で織られています。日本の場合、滋賀県で製織されたものは「近江の麻」として認定されています。私どものハードマンズ・アイリッシュリネン80と60は浜松で製織されています。
綿の場合でいうと、綿花の産地がベースになっています。綿の品種でも分けられることがあります。紡績された国とか、製織された国によって表示することはまずありません。日本製生地といっても、海外から仕入れた原反にプリントや仕上げなどをして、日本製と表示しているケースが相当あります。
その方式でいうとリネンの場合は、ほとんどがフレンチリネンということになります。リネンも品種があるのですが、まだそこまで明快に分けて表示されることは無いようです。
アイリッシュリネン
アイリッシュリネンというとき、大きく2つの流れがあります。現在アイルランドには農場も紡績工場もありませんので、アイルランド製の糸というのはないのです。
アイリッシュその1 ハードマンズのリネン
私どもでアイリッシュリネンと呼んでいる製品がそうです。
アイリッシュリネンの最高峰、リネンのロールスロイスといわれたハードマンズ社自体は、今では残っていません。北アイルランドSionMilsには工場の跡だけが残っていますが、ハードマンズ社のポリシーと技術を受け継いで作られるハードマンズブランドのリネン麻糸を使ったものです。
原料はフランスのトップグレードを使い、紡績は中国、製織は中国・日本です。(当社のリネン生地は日本で製織したものがほとんどです)
産地表記としてのアイリッシュではありません。リネンの最高級品としての品質を持ったハードマンズの糸を使った生地を、品質への尊敬をこめて「アイリッシュリネン」と称します。糸番手60、80、100のみに使用します。

アイリッシュその2 アイリッシュリネンギルドのリネン
アイルランドにあるアイリッシュリネンギルドという団体に属するリネンの生地メーカーが主です。クオリティに関しては良いものもあれば、そうでないものも散見されます。
アイルランドで織っているということが基本(例外もあり)だそうです。原料はフランスが多く、紡績は高級品はフランス、大半は中国、製織はアイルランドもしくは中国で行われているものもあるそうです。
フレンチリネン
フレンチリネンは高級品とされていますが、これは正しくありません。フラックスの原産国という点でいえば、世界中の大半がフレンチリネンといえるでしょう。大きく2つぐらいに分けられます。
フレンチリネンその1 サフィラン社のリネン
フランス産の原料を使い、フランスで高品質の紡績を行なっているのがサフィラン社です。生地ではなく、糸のメーカーなので、実際に製織されているのはイタリア、中国、日本・・・いろいろですね。
ここの糸は高級品で品質が良いと評判で、以前ミナペルホネンの皆川さんにハードマンズの生地を見ていただいて、良い生地とおっしゃっていただきましたが、皆川さんはサフィランのリネンを使ってらっしゃるとのことでした。
もちろんサフィラン社の糸にもグレードがあり、全てが高級品ではありません。ただ、品質管理がしっかりしていることは間違いないでしょう。

フレンチリネンその2 フランスの原料を使ったリネン
フレンチリネンと呼ばれるとき、ほとんどはこのケースです。原料の産地呼称となります。
世界全体でみると、フランス産(ノルマンディー地方+ベルギー・オランダのフランドル地方)フラックス(リネンの源料)は80%近いシェアを持っていますので、アイリッシュリネンもベルギーリネンもリトアニアリネンも、実はほとんどがフランス産の原料といっていいでしょう。
リネンには品種(10~11種類 Terre de LINによる)があり、さらに畑、生育状況によって品質の差がでます。Terre de LINでは10段階のグレードに分けているといいます。つまり、市場に出回るリネンの大半はフレンチリネンで、その品質は低級品から高級品まで玉石混淆であるということです。フレンチリネン=高級というわけではありません。
フランスで生育されたフラックス原料の70%以上は中国へ輸出され、紡績、製織されます。

ベルギーリネン
情報が少なく、正直よくわかりません。ベルギーはフランスのノルマンディー地方に隣接するフラックス原料の産地でもあります。かつてフランドル地方といわれたオランダを含めた地域で栽培がなされていますが、品質的には同程度だと思われます。フランスに比べると生産量は1/5程度です。
ベルギーにも紡績業者がありますが少数です。リネン布の製織量は27tほどとありますから、それほど多いわけではありません。原料から布まですべてベルギーというのは極めて少ないと思われます。
多くは、ベルギーもしくはフランス産原料を中国で紡績して、ベルギーで織っていると思われます。生産規模から推定しました。
リトアニアリネン
リトアニアでもフラックス栽培は行なわれていますが、フランスの1/20と少なく、リトアニアのリネンメーカーであるSiulas社を訪れた際に「リトアニア産のリネンを使っているのか」と聞いたところ「リトアニア産のフラックスは質が悪いので、我が社ではフランス産を使っている」とのことでした。
Siulas社の例でいうと、原料はフランス、紡績と製織はリトアニアということになります。リトアニアはリネンの製織メーカーが多く、ヨーロッパ各社へリネン布を提供しているようです。もちろん日本へも入ってきています。
ただ、一般的に高級品の細番手は苦手のようで、当社も毛羽で苦労しました。スライバーの状態を比べると良くわかります。

リトアニアSiulas社工場のスライバー

ハードマンズ認定工場(中国)のスライバー 毛羽がすくなく滑らか
なぜ違うかというと、原料となるフラックスの品質差だと思われます。実際工場に訪れましたが、ハックリング工程前のフラックスの原料はハードマンズの方が整っていてきれいだったからです。ハックリングからスライバーまでの過程はハードマンズの方が丁寧になされています。
これはSiulas社が悪いというわけではありません。中級ランクの要求が多いため、ハードマンズのような高品質ランクのリネン糸に使うような高品質のフラックスの扱い量が少ないためと思われます。60番手の生地を作ってもらったところ、毛羽が出て使い物にならずに500m近い生地をあきらめたことがありますが、高い勉強賃でした。
リトアニアのメーカー全体にいえると思いますが、雑貨等に使われるようなリネンの中級品クラス(25~40番手)を得意としています。フランスなどヨーロッパの雑貨メーカーへリネン生地を提供しているのがリトアニアのリネンメーカーです。
Siulas社曰く「ドイツのHeimtextilには出展するが、パリのMaison&Object見本市では、当社のリネン生地の供給先が多いので、展示会には出ない」ということでした。
当社もビラベック社羊毛敷布団の裏面に使っているリネン生地はSiulas社です。25番手や40番手の生地では全く問題はありませんでしたが、60番手で毛羽が多く出ました。40番手で比べた場合でも生地の仕上がりに差がでます。リトアニアリネンはネップ(糸が太くなった部分)が多く、一方ネップの少ないハードマンズの生地は均一性が高く毛羽も少ないのです。
産地でごまかされないようにしよう 品質で選ぶべき
ネットの情報をみても、結構誤ったものが多いというのが感想です。一番多いのは「アイリッシュリネンはアイルランド産の亜麻で織った」というもので、元々はそうでしたが、ハードマンズでも、フランスやベルギー産の原料を使っていたそうですし、現在となっては「アイルランド産の亜麻」自体がありません。紡績工場もありません。
こんな記実もありました「フレンチリネンは、リネン生地の中でも最上級のクオリティ」。これも正しくありません。フレンチリネンは低級品から高級品までオールラウンダーというのが正しいでしょう。良いものもあれば、2亜の原料を使った低級品も多く出回っています。
フラックス原料と紡績の丁寧さが品質を決める
フランスのフラックス農業法人Terre de Linに訪問した時に、リネンは品種が11種類あるといわれました。リネンのグレードは10段階に分かれるとも。
つまり、どこで紡績するか、製織するかではなく、良い原料を使い、紡績途中でグレードの低い原料を混ぜずに湿式紡績で丁寧に仕上げることが品質を決めます。
60番手以上の細番手、特に80番手や100番手以上の糸を作るには、このことを徹底して行うことが必要なのです。結局、天然素材全てに云えることですが、まず上質な原料を揃える+丁寧に仕上げる このことに尽きます。産地名でなんとなく、という判断はなさらないでいただきたいと思います。