リネンの産地表記はいろいろ、バラバラ
リネンの産地表記はいろいろとあります。
- 原料であるフラックスの生産地を表示する方法
- 紡績した糸の生産地を表示する方法
- 製織した布の生産地を表示する方法
実際にはこれらの表記が混在しているため、さまざまな誤解を生む元となっています。
木綿の場合は原料産地が基本
例えば綿の場合は、基本的に原料の綿わたが採れた産地を表記します。エジプト綿、インド綿、海島綿、米綿、新疆綿 等々。綿の品種で示す場合もあります。アップランド綿、ピマ綿、デシ綿などです。また、品種改良で生まれた超長綿は商品登録名で呼ばれます。スーピマ綿、スヴィンゴールド、GIZAなどで、これは同じような品種でもメーカー別に名前を付けていることも多いので、整理しきれません
国産の綿生地と謳っている場合でも、原料が国産の原綿はまずありません。最も多いのは、生機(製織=織り上げたままの生地)は海外製で、日本で染色、仕上げなどをする場合です。国産生地の表記ができますので、市場流通の多くがこれです。一方100番手以上の生地で、高付加価値品になると、日本で紡績し、製織し、仕上げを行いますが、これは限りなく国産に近いです。
このページと重なる部分もありますが、整理してみました。両方ご一読ください。
フラックスの生産地を表示する方法(例:フレンチリネン)
一般にフレンチリネンと呼ばれるものです。フランスの原料を使い、紡績と製織はほとんどが中国、あるいはアジアの諸国です。世界中のリネン麻の産地のほとんどがフランスで占められています。2019年のデータではフラックスの全世界生産量104.5万トンのうち、フランスが85万トン(81%)隣接するフランドル地方(ベルギー9.5万トン、オランダ1.4万トン)を合わせると90%以上がこの地域です。現実的には リネンの原料=フランス産といっても過言ではありません。
大量消費型の量販店が「フレンチリネン」と表記しますが、間違いではありません。といいますか、日本へ入っているアパレル系のリネン生地は、ほとんどが フラックスの原料はフランス産、紡績・製織・縫製が中国といっても過言でないのです。ノルマンディーからフランドル地域以外で得られるフラックスは、質の面では劣るものが多いのですが、だからといって「フレンチリネン」という名前だけで品質を期待することはお勧めできません。
実際ハードマンズのリネン(アイルランドで紡績していた頃)も当初はアイルランド製でしたが、後半はフランス製がほとんどでした。リトアニア・シウラス社へ訪れた際も、当初はリトアニア産のフラックスであったものが、品質の面から安定しているフランス産を使っているということでした。
この図でグリーンのトラクターの絵がリネン(フラックス)を栽培しているところです。フランスが圧倒的に多く、次いでベルギー、オランダ。あとバルト海沿いにドイツ、ポーランド、リトアニア等も少しあります。
紡績した糸の産地を表示する方法
上記の図でブルーの丸が付いたのがスピナーと呼ばれる、リネン糸の紡績工場がある国です。ヨーロッパだとフランス・ベルギー・イタリア・ポーランド・ハンガリー・リトアニアですが、世界的には中国が圧倒的なシェアを持っています。フランスのTerr de Linへ訪問した際にも、生産したフラックスの80%は中国へ輸出されて紡績されるとのことでした。日本に輸入されるリネン糸も令和4年で898万トンの輸入のうち、中国からは866万トン(96.4%)と圧倒的です。
ベルギーリネン、イタリアリネン、リトアニアリネンなどは、主に紡績した産地と考えていいでしょう。リトアニアSiulas社に訪問した時も、ハックリングからスライバーを経て紡績するまでの工程を見せていただきました。Siulas社は同時に生地の製織も行われていますので、下記の分類にも入ります。
アイリッシュリネンも元々はこの分類です。ハードマンズは生地メーカーではなく、高品質のリネン糸メーカーだったのです。
生地を製織した産地を表示する方法
紡績した糸を使って織った産地を示す場合です。例えば国産リネン生地という場合は、日本で生地を織った場合です。日本ではフラックスの農場もなく、紡績工場もありません。中国から糸を購入しているケースがほとんどです。綿と同様に、輸入した生機を国内で仕上げた場合も国産表示をすることがあります。
当社の場合はLI100 LI80A LI80Cは日本で製織しています。LI60もLF40も当初は中国製織でしたが最近のロットはすべて日本での製織になりました。最後の仕上げ工程は地元滋賀県で行っていますので、そうなると滋賀産(近江産)といってもいいでしょう。実際、滋賀県の地場産業である麻繊維工業は、糸はほとんど中国から輸入して日本で織っているものを「滋賀の麻」と表示しています。
アイリッシュリネンギルドに所属しアイリッシュリネンを表示するものも、このケースです。アイルランドにはフラックス農場も紡績工場もありません。製織工場のみが残っています。
眠りのプロショップSawadaでのアイリッシュリネンの表記のルールはハードマンズの金ラベル
こうなると、眠りのプロショップSawadaで販売しているアイリッシュリネンと呼ばれる生地は、原料の原産国であるならばフレンチ・リネンといえますし、紡績した国ということであれば中国、製織については基本的に国内です(ごく一部で中国製織生地が残っています)。
品番 | 呼び方 | 原料 | 紡績 | 製織 | 仕上 |
LI100 | アイリッシュリネン100 | フランス | 中国 ハードマンズ金 | 日本・中国 | 日本 |
LI80S | アイリッシュリネン80 | フランス | 中国 ハードマンズ金 | 日本 | 日本 |
LI60 | アイリッシュリネン60 | フランス | 中国 ハードマンズ金 | 日本 | 日本 |
LO60 | 近江産リネン60 | フランス | 中国 | 日本 | 日本 |
LF40 | フレンチリネン40 | フランス | 中国 ハードマンズ銀 | 日本 | 日本 |
眠りのプロショップSawadaでは、ハードマンズの金ラベルが付く60番手以上の品について、アイリッシュリネンの表記をしています。産地や紡績などの意味ではなく、ハードマンズの技術で作られた細番手のリネン糸を使った、かつてのアイリッシュリネンの品質を保つものとしての、ブランド名とご理解ください。
アイリッシュリネンと謳うのはごまかしではないか、という意見があるのも理解しておりますが、アイルランドで織った生地がアイリッシュリネンなのか、「アイリッシュリネン」というほどの高品質な生地ばかりなのかというと、現実にはそうではない課題があるのも事実かと思います。
実際、リトアニアリネンというと、結構良いもの、と好意的に受け止められることが多いのですが、実際糸のレベルはネップが多く、ハードマンズに及びません。かつて60番手の生地を織ってもらったことがありますが、毛羽が多すぎて使い物になりませんでした。
当店のアイリッシュリネンの表記は、確かな品質であることの証でもあります。